要件定義・プロジェクト管理の用語集【実務で使える一言Tips付き】
要件定義・プロジェクト管理の用語集【実務で使える一言Tips付き】
導入
プロジェクトの現場では「言葉の定義」がずれるだけで、計画も合意も大きく狂います。
「要件」と「要求」、「合意」と「承認」、「Fit&Gap」と「MoSCoW」――似て非なる用語を正しく使い分けることは、品質と納期を守る第一歩です。
この記事では、要件定義・設計・運用・変更管理など、ITプロジェクトで頻出する主要用語を体系的に整理。各語に「一言Tips(使いどころ・混同しやすい語)」を添え、現場で迷わず判断できる実践型の用語集としてまとめました。
またフィットアンドギャップ分析,モスクワ分析の詳細については、下記の記事をお読みください。
要件定義・プロジェクト管理系
要件定義や変更管理は、プロジェクト成功の根幹を支える概念です。
そのため単なる言葉の定義に留まらず、「どの会話で使うか」「どんな資料に残すか」を意識することがポイントです。
| 用語 | 意味・実務Tips |
|---|---|
| 要件定義 | システムに求められる機能・品質・運用条件を合意する工程のこと。受入条件と「やらないこと」を同時に明記するのが実務上の鉄則。 |
| 要求定義 | 利用者や経営層のニーズを抽出する工程のこと。What(目的)×Why(根拠)をセットで整理すると方向性がぶれにくい。 |
| 基本設計 | 要件を「どう実現するか」に落とす段階のこと。画面・データ・I/F・非機能を骨格として設計する工程。 |
| 成果物テンプレ | 要件定義書や議事録などの雛形。版管理と承認欄を備えて初めて正式な合意文書となる。 |
| レビュー観点 | 網羅性・一貫性・曖昧語・受入条件・非機能・セキュリティ・運用性などを定常チェックするための観点のこと。 |
| KPI | 品質や進行の尺度。例:差戻し率/未定義語数/承認リードタイムなど。 |
| KGI | プロジェクト目的に直結する最終成果指標。例:業務時間の削減、障害件数の低減など。 |
| ステークホルダー | 経営層・現場・IT部門・運用担当など。責任と承認権限の線引きを明確にすることが合意の前提。 |
| 合意形成 | 意見の収束と正式承認までの流れ。議事録・決裁ログで証跡を残すと監査にも耐えられる。 |
| 範囲外/やらないこと | プロジェクトのスコープ外項目を明文化。追加要望を抑制し、変更要求(CR)の暴走を防ぐ。 |
| 変更管理(Change Control) | 変更の受付→影響分析→承認→実装→クローズまでの統制手順。合意と証跡が鍵。 |
| CR(Change Request) | 変更要求票で正式起票。背景・目的・影響・費用・期日をセットで記録。 |
| CR門番 | 変更要求を受け付ける前に整形・優先度付けを行うゲートキーパー。混乱を防ぐ役割を担う。 |
| 版管理 | 文書の改訂履歴を追跡する管理。版名ルールと履歴の一元化で混乱を防ぐ。 |
| 証跡 | 誰がいつ何を承認したかを示すログ。合意の再現性を保証する基盤。 |
一言Tips:
「合意」と「承認」は似て非なるものです。前者は関係者の意見の一致、後者は責任者による最終決裁です。両方のプロセスを文書で残すことが信頼性を生みます。
システム構造・設計関連
設計関連の用語は、抽象度の高い要件を形に変える過程で活躍します。
ここでの目的は「伝わる設計」―誰が読んでも同じ結果を描ける設計情報を残すことです。
| 用語 | 意味・実務Tips |
|---|---|
| 非機能要件 | 性能・可用性・セキュリティ・運用保守など。可能な限り閾値(しきい値)を数値で定義する。 |
| ユースケース | 「誰が・何を・どうするか」を記述。受入条件と結びつけてテスト設計にも流用できる。 |
| 画面ラフ/モック | 仕様を言葉より早く共有できる手段。早期レビューで齟齬を最小化。 |
| 入出力定義 | 入力→処理→出力を表形式で明示。例外処理の抜けを防ぐ。 |
| データ定義 | データ型・桁数・必須/任意・制約条件を一覧化。マスタ整備とセットで扱う。 |
| 運用・監視 | 体制・監視項目・通知ルールを設計。特に死活監視と業務監視を区別して設計する。 |
| 移行 | 旧システムからのデータ移送と検証。リハーサルで移行後の整合性を確かめる。 |
| リスク | 「影響度×発生確率」で優先順位を設定。回避/低減/受容/転嫁の4方針で整理する。 |
手法・分析系(優先度と現状把握)
分析系の用語は、「何を残し、何を変えるか」を判断するための武器です。
| 用語 | 意味・実務Tips |
|---|---|
| Fit&Gap分析 | 現行業務と新システムの差分分析。運用変更/カスタム/除外などの対応方針を決める。 |
| MoSCoW分析 | Must/Should/Could/Won’tの4区分で優先順位を整理するための分析。目的貢献度と実現容易性を軸に判断を可能に。 |
| 優先度マトリクス | 重要度×緊急度などの二軸で可視化し、合意を視覚的に支援。 |
| 代替案 | 実装が困難な場合のPlan B。目的を損なわずに現実的な選択肢を提示。 |
| 現状分析/課題棚卸し | As-Is業務の可視化。数値と事実で語るのが基本。 |
| ヒアリングノート | ステークホルダーの声を一次情報として記録。要件IDと紐付けて再利用。 |
| 利害対立マップ | 関係者の意見や期待の衝突を図示。早期に落とし所を発見するための補助資料。 |
| 痛点マップ(Pain Point Map) | 現場の“不都合”を影響度×頻度×検知難易度で採点し優先度を可視化する手法。対応方針(運用変更/標準機能/カスタム/除外)と期限・責任者を紐づけ、 フィットアンドギャップやMoSCoWに橋渡しする。 |
一言Tips:
フィットアンドギャップで見つけた「Gap」をすぐにカスタムと結論づけず、業務変更の余地を検討することがコスト最適化につながります。
運用・品質・セキュリティ系
システムの安定稼働を支える領域。非機能要件とセットで定義することで、トラブル発生時の対応が迅速になります。
| 用語 | 意味・実務Tips |
|---|---|
| 可用性 | 稼働率・RTO・RPOなど。SLAや監視体制とセットで設計する。 |
| 認証/権限 | ID管理・多要素認証・最小権限の原則を守る。 |
| ログ | 操作・エラー・監査情報を記録。保管ポリシーと保存期間を明示する。 |
| 監視 | 死活監視・性能監視・業務監視など多層設計。通知ルールを定義しておくと運用が安定する。 |
| バックアップ/復旧 | 世代数・保管場所・演習スケジュールを明確化。実演テストを定期実施。 |
| 保守窓口 | 問い合わせ→対応→エスカレーションの流れを運用ルール化。 |
評価・運用指標系(レビューと承認の見える化)
品質は「見える化」してこそ改善できます。プロジェクト管理では、レビューや承認を定量的に把握することが重要です。
| 用語 | 意味・実務Tips |
|---|---|
| 未定義語 | 用語集に未登録の言葉。レビューでゼロ件を目指す。 |
| 未設定受入条件 | テスト不能な要件。必ずGiven-When-Then形式で具体化。 |
| 未記述項目 | テンプレート必須欄の欠落。自動チェックツールの利用も効果的。 |
| 差戻し件数 | 品質KPIの基本。原因別に分析し、再発防止策を設ける。 |
| 滞留期間 | CRや承認プロセスの停滞時間。ボトルネック特定に役立つ。 |
| 承認リードタイム | 合意までの平均時間。SLA目標を設定すると改善が進みやすい。 |
実務ドキュメント系(すぐ使える成果物)
要件定義で最も使われるドキュメント群。形骸化しがちな議事録や要件一覧も、構造と更新ルールを整えるだけで生きた資産になります。
| 用語 | 意味・実務Tips |
|---|---|
| 議事録 | 決定・保留・宿題・担当・期限を明記。決裁者の確認サインを必ず残す。 |
| 要件一覧 | ID/出所/優先度/受入条件/担当/状態を一元管理。Excelより表形式の文書管理が望ましい。 |
| 変更要求票 | 背景・目的・影響・範囲・費用・納期を整理。優先度を明示して判断を促す。 |
| 合意記録 | 承認者・発効日・版を明記。電子署名やワークフロー承認で証跡を残す。 |
| 範囲図 | 対象業務・システム境界・I/Fの俯瞰図。関係者の共通理解を形成する。 |
| 目的カード | 目的・狙い・KGI/KPI・非機能閾値を一枚にまとめ、判断軸として活用。 |
| “やらないことリスト” | スコープ外項目を明文化。変更要求の歯止めとして機能する。 |
対話・共有・レビュー運用(認識合わせの技法)
プロジェクトを成功に導く最大の鍵は「会話の質」です。専門用語を翻訳し、誰もが理解できる共通言語を築くことが合意形成の第一歩になります。
| 用語 | 意味・実務Tips |
|---|---|
| モック/プロトタイピング | 言葉より画面。初期段階で見せることで理解のズレを早期に修正。 |
| 共通用語集 | 各職種が使う用語を統一。対義語・類義語を管理して混乱を防ぐ。 |
| 共通言語 | 平易な表現+図解で伝える。立場の違う相手にも伝わる言葉を選ぶ。 |
| 目的カード | 会議の冒頭で読み上げ、議論の軸を再確認する。 |
| 閾値(しきい値) | 目標と許容の境界値。例:応答1秒以内など、テストで確認可能な形で設定。 |
用語集の使い道
この用語集は、単なる定義の羅列ではなく、要件定義の品質を高めるための“共通言語ツール”として活用できます。
主な活用シーンは以下の通りです。
-
プロジェクト初期の認識合わせやフィットアンドギャップ分析時
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レビュー・承認プロセスにおける判断基準の統一
-
新人教育や社内ナレッジ共有の教材として







